エンジンの慣らし専用に設計されたミネラルオイルです。名称のBreak-In (ブレークイン) が ”慣らし” を意味します。
MahleやJE Piston等の高名なピストン及びピストンリングメーカーもBreak-Inオイルを使用した慣らし運転の実施を推奨しています。
このオイルは、ピストンリングとシリンダーの摺動面の短期間での慣らし完了と、負荷が高いカムとバルブリフターの摺動部の保護を目的として添加物が最適に調整されています。シンセティックオイルは摩擦を下げすぎてしまうため、適切なシール性を得るために短い場合でも1,500km、長い場合では10,000kmもの距離を様々な負荷で慣らし運転することが通常です。しかしこの方法ではせっかくオーバーホールで清掃し、場合によってはカーボン付着防止処理したバルブやピストンに再びカーボンが付着し、慣らしが完了したときにはもはや狙った性能ではなくなっています。だからといって距離を短くしてしまうと、エンジン出力に直接的な影響を与えるピストンリングとシリンダー壁面のシール性が完全なものになりません。適切に摩擦を調整したこのオイルが、ホーニングしたシリンダー壁面とピストンリングの密着性を高め、短時間で理想的な摺動面に仕上げます。このオイルによる慣らし運転はホーニングの最終行程なのです。このことはプラトーホーニングされたシリンダーにも当てはまります。別の視点では、シンセティックオイルを使用し密着性が完全でない状態で長距離の慣らし運転をした場合には、その間に多くの燃焼ガスがクランクケースに吹き抜けて、エンジンに有害な燃焼生成物がオイルに溶け込み、EGRにも未燃焼ガスが増えることになり、摩耗やカーボン堆積など慣らし中エンジンに悪影響を与えます。さらにピストンリングのシール性能が低いということは、吸気工程での吸気効率が低い、つまり燃焼効率もベストでないということであり、慣らし中燃費への悪影響を意味します。
北米ではブレークインオイルを使用することが一般的で、自動車用品量販店でも数十種類が取り扱われています。しかしその中でも成分が適切に調整されたものは非常に少なく、MOTULのBreak-Inオイルはその数少ない慣らし運転に最適なオイルです。適切な洗浄分散剤によって堆積物を防止しエンジン内部をクリーンに保ちます。また通常よりも摩耗防止剤であるZDDPを多く配合することで、カムとバルブリフターの保護性能が向上しています。ただし、この添加剤は適切な慣らしのためには多すぎても少なすぎてもいけません。これら以外にもいくつかの適切な配分が必要な添加剤があり、逆に適切な慣らしのためには摩擦調整剤として高名なモリブデンはここでは邪魔な存在です。モリブデンは摩擦低減効果が高すぎるため、慣らし運転期間を伸ばしてしまいます。もちろんMotul Break-Inオイルは必要な添加剤が適切に含まれ、慣らしに邪魔となる成分は含まれていません。通常ご自分が使用しているオイルに混合する添加剤タイプの慣らしオイルもありますが、上記のような微妙な配合が、配合添加剤のはっきりしないベースオイルに添加剤を加えただけで得られるはずがありません。
Break-Inの効果を上げるため、組み立ての際にも注意点があります。組み立ての際のピストンリングやピストンスカート或いはシリンダー壁面には切削油或いはBreak-Inオイルの使用を推奨します。高い粘度で厚い油膜を形成したり強い油膜を形成するアッセンブリールブや高粘度の化学合成油は慣らしの促進を阻害します。
Break-Inオイルを使用した慣らし手順は各ピストンメーカーやショップでそれぞれの流儀がありますが、このオイルの一つの使用例を以下に示します。
- 規定量をエンジンに注入して下さい。
- 燃料系及び点火系の作動が正常なことを確認の上、初回始動してください。*2
- チューニングエンジンの場合、速やかに燃料噴射量と点火時期を適切に調整してください。*3
- 3で問題がなければ、最高回転数の25~35%で20~30分、回転数を上下させてください。*4
- ハーフスロットルで負荷と回転数を変化させながら20~30分運転してください。ここでは全開負荷は避けます。
- 最高回転数の25%から最高回転数の75%までの全開負荷運転し、スロットルを閉じてエンジンブレーキで最高回転数の25%まで戻します。これを5、6回実施してください。*6
- 慣らし後即時、或いは4,000kmまでを上限に通常運転に使用するオイルに交換してください。*7
注: 安全上の観点からエンジンベンチ、或いはシャシーダイナモ上での実施を推奨します。サーキット等で実施する際は周囲の状況に十分注意してください。
注: エンジン脱着に伴って切り離し/締結したハーネスコネクタやボルトナット類が締結され、ベルト類が正常に取り付けられていることを確実にしてください。
注: MahleやJEピストンはBreak-In手順を公開していますので、使用しているピストン或いはピストンリングメーカーの手順に倣ってください。また、カムのメーカーも慣らし手順を指定している場合があり、その場合はそちらを優先してください。
注2: 初回始動において、直接的なオイル経路を持たずクランク等の撹拌により潤滑している部位については、潤滑が不十分なまま何度もクランキングを繰り返すと特にカムやリフターに深刻な異常摩耗を発生させる恐れがあります。初爆が得られない場合はすぐさま始動を中断し原因究明を優先してください。
注4: 主にカムとバルブリフターの慣らしの工程です。ローラーロッカーの場合には重要ではない工程ですが、シリンダーの暖気のために実施してください。チューニングエンジンの場合は停車状態でオイルやクーラントのリークチェック、またA/Fチェック及び調整を行うことを推奨します。
注4: より慎重を期する場合はこのあとにエンジンオイルとフィルター交換を実施してください。
注6: 主にピストンリングとシリンダーの慣らし促進の工程です。適切な慣らし促進のために十分な暖気後に適切な燃焼圧力をかけることがとても重要です。
注7: オイルフィルターも交換するか、一旦外してフィルター内のオイルを排出させることが望ましい。慣らし完了後は4,000kmを待たずに早めに交換されることを強く推奨します。通常は、乗用車であれば初回始動後150km程度、レース車両であれば最初の練習セッションの走行でピストンリングの慣らしは完了しています。
最短で半日という短い時間で最初のオイル交換サイクルが完了し、そのオイルを廃棄してしまうことに勿体なさを感じてしまうかもしれません。しかし、短期間での慣らし運転は、オーナーの負担となる慣らしにかかる時間、燃料費、有料道路料金を削減し、なにより環境負荷を低減します。
4ストロークの競技用のエンジンだけではなく、新車の標準エンジンにも適用できます。高性能スポーツカーやセダン、ハイカム装着車等の高出力チューニングエンジン、ノーマルエンジン、空冷/水冷あらゆる車種/エンジンに使用できます。
粘度については、純正指定にこだわる必要はなく、この10w40であらゆる車種やチューニングレベルに適合します。これは初回始動直後のエンジン内のオイル循環を早くすることと、何よりシリンダーとピストンリングの慣らしを促進するために適切な油膜を狙って選定している粘度であるためです。これらのことから、純正指定粘度と同じか或いは違うかにかかわらず、慣らし実施後は4,000kmを待たずに早めに交換されることを強く推奨します。
ピストンリングにDLCコーティングされた場合も、慣らし工程やオイルを変更する必要はありません。DLC被膜は十分に硬度が高く、摩擦調整された本オイルを使っても影響はありません。さらにシリンダー壁面の平滑化はDLCコーティング済みリングにおいても同様に重要であり、且つ同様の工程で慣らしを行えばシリンダー壁面の慣らしは促進されます。
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